池上俊一 特別講演

 

日時:2001 年12月9日
場所:講堂小ホール

ゲスト講師:池上俊一

     

 

「ドイツ・ネーデルラント絵画と視線の近代」
 16〜17世紀のドイツ・ネーデルラントでは、イタリア・ルネサンスの影響を濃厚に被りつつも、その固有の文化風土や政治・社会の変動のなかで、新しい特徴をそなえた絵画が生まれました。イコノグラフィーの規則に則って解釈が可能であった中世・ルネサンス絵画から、より複雑な心理学的、社会学的、記号学的な解釈を要請する、近代絵画へと飛躍したのです。技術革新や絵画を享受する市民層の発展も無視できませんが、とりわけ、視線と絵画の接触から生まれる意味を転回させた、輻輳的な力の作用を解き明かすことが重要です。それは、一見旧来の構図を踏襲したように見せながら、じつはまったく新しい絵画を誕生させたのですから。とりわけ面白いのは、女性の裸体図にそそがれる画家および観者の視線です。本講演では、こうした点に着目しながら、近年、欧米でさかんになってきた、歴史図像学の試みをしてみたいと思っています。およそ、以下に列挙したような項目についてお話しました。

 

Ⅰ 北方絵画の新機軸

 (a)代表的画家たち

 (b)イタリア詣で

 (c)家庭に潜入する画像—版画の普及

 (d)リアリズムの深層

Ⅱ 聖なるイメージから誘惑するイメージ一女体図について

 (a)聖なる視線

 (b)視線の逸脱

 (c)天使の眼差しから邪視へ

 (d)ヴィーナスとイヴの女体像
Ⅲ 宗教改革の芸術観

 (a)対抗宗教改革の風紀粛正

 (b)ドイツ・プロテスタントのアンビバレンス

 (c)ネーデルラントの場合

 (d)成熟する市民文化

 

池上 俊一

1956年愛知県豊橋市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学助手(文学部)、 横浜国立大学助教授(教育学部)を経て、現在、東京大学大学院総合文化研究科助教授。著書には『歴史としての身体』、『動物裁判』、『魔女と聖女』、『賭博・暴力・社交』、ジャック・ルゴルフ『中世の夢』、『ロマネスク世界論』など。ヨーロッパ文明の本質が形成された時代を、心的世界の側面から現実世界を全体史的に解明しようとする先駆的研究者。

吉増剛造・マリリア 特別講演

 

日時:2001年12月8日
場所:講堂大ホール

ゲスト講師:吉増剛造、マリリア

     

 

「花火の家の入口で —詩と歌— 」 Na entrade da casa dos fogos

 異文化、異言語の細い径を、詩や歌、仕草や身振りは、どんな通り方、歩み方をするのでしょうか。ジャクソン・ポロック等にふれつつの話、そして、パウル・クレー、『あたらしい歌』への接近のこころみの日として、講演会を行ないました。

 

吉増 剛造 (詩人)

1939年東京生まれ。慶應義塾大学卒。詩集『出発』で60年代を代表する存在に。70年詩集『黄金詩集』(高見順賞)70〜71年米アイオワ大学にて招待作家として、各地で詩の朗読をする。79年詩集『熱風 A Thousand Steps 』(歴程賞)、詩集『吉増剛造詩集(全5巻)』。79〜80年ミシガン州立オークランド大助教授。84年詩集『オシリス、石ノ神』(現代詩花椿賞)。84〜90年多摩美術大講師。90年詩集『螺旋歌』(詩歌文学舘賞)。92〜94年ブラジルサンパウロ大教授。98年写真展『鯨疲れた、・・・』、詩集『雪の島』あるいは『エミリーの幽霊』(芸術選奨文部大臣賞)。他に『生涯は夢の中径—折口信夫と歩行』、『吉増剛造詩集 41巻』、『続・吉増刷造詩集 115巻』、『続続・吉増剛造詩集116巻』、『打ち震えていく時間』、『はるみずのうみ—たんぽぽとたんぷぷ』、『盤上の海、詩の宇宙』、「ことばの古里 ふるさと福生」、『花火の家の入口で』、「燃えあがる映画小屋」、『スコットランド紀行』、『死の舟』、『静かな場所』など著書多数。現代詩の先端で、疾走する言葉を刻印し続ける詩人。

 

マリリア(シンガーソングライター)

シンガーソングライターとして1982年に米国・ロサンゼルスでデビューして以来、日本や米国、フランスなどの世界各国で活躍。これまでにリリースしたアルバムは、「河の女神の歌」(1988年)と「私の顔に近い月は魚」(1994年)。彼女独自の音楽スタイルを築いてきた一方で、彼女の歌は多様な声調と音楽スタイルを組み合わせつつ、世界中で詩と歌のリサイタルを共に行ってきた詩人・吉増剛造氏の詩の世界に大きく影響を受けている。また、彼女は日本の舞踏家、大野一雄氏や写真家、荒木経惟(あらきのぶよし)氏との共同製作により『彼岸から』(1994年)と『少女が獨り宙に浮かぶ』(1997年・吉増剛造氏も参加)という2本のビデオも発表。

その他作品多数出演。

高橋睦郎 特別講演

 

日時:2001 年10月31日
場所:301演習室

ゲスト講師:高橋睦郎

     

 

(レジュメより)   
 わが国の洋画史は、ある意味では、工科大学校付属工科美術学校御雇外国人画家、フォンタネージの教育から始まるが、彼がフランス・バルビゾン派の影響を受けた風景画家だったこともあって、イタリア・ルネサンス美術を素通りして、フランス近代美術、ことに印象派、すくなくとも前印象派から始まっている印象が濃い。しかし、印象派もその根はルネサンス美術にあるのであって、わが国の洋画もその根をイタリア・ルネサンス美術に求めるべきだろう。それも美術を産んだ土壌としてのルネッサンス社会にまで。たまたま日本におけるイタリア年TV企画の一貫としてのフィレンツェ美術の旅の78分間ヴィデオ・フィルムを材料に、イタリア・ルネサンスの意味を学生諸君と考えてみたい。

 

高橋睦郎(詩人)

1937年12月15日、福岡県八幡市生まれ。著書は詩集18冊を含め60冊以上。「十二の遠景」(中央公論社)、「花行  高橋睦郎句集」(ふらんす堂)、「柵のむこう」(不識書院)、「倣古抄」(邑心文庫)、「旅の絵」(書肆山田)、「姉の島 宗像神話による家族史の試み」(集英社)、「この世あるいは旅の人」(思潮社)、「読みなおし日本文学史 - 歌の漂泊」(岩波新書)、「旅の身仕度」(創樹社)、「百人一句」(中公新書)等。